彼の指先が私を拱く

口元には優しい笑みを浮かべながら至極楽しそうに―





supposed





「ほらこっち来い」

たじろぐにバルフレアはもう一度呼ぶ

「来いって」

何やら不信感を持っているのか部屋に入った姿勢のまま動こうとしない。
業を煮やしたバルフレアは真顔になり言葉を出さずにまた指先だけを動かし呼びつける


「・・・・・はい・・」

観念したかのように歩き出したは彼の前で訝しげな表情で直立する。

まるで先生に怒られる前の生徒のように。
バルフレアは自分が座っているソファーを指差し座れと促す。

「・・はい」

横向きに座っているバルフレアと前を向いて普通に座った

「わざとだろ?」

「違います」



制するように名前を呼べば少し俯いたその顔。

肩に流れるその髪は途中で不自然に短くなったり長くなったりとバラバラである。
それを怪訝そうに見つめたバルフレアはの腰に腕を回し自分に背を向けさせる。


「ちょっ、、、と!」

「誰がこんな事したんだ?」

髪を一束掬い上げ手櫛でそれを梳かす

「・・・・はい」

「揃えてやるから、じっとしてろよ」

「・・・ありがとう、バルフレア」



テンポ良く聞こえる髪を切るハサミの音。それを聞けば彼は見えないけれど指先が器用なんだなと思った。
頭部から髪先へスゥと流れるバルフレアの指。こうやって人に髪を触られるなんてどれ位前のことだろう。
その心地よさには目を細める。



「髪、触られるの好きだろ?」

「!えっ、、、」

「喋らなくなったからな、そう思った」

彼は何処まで聡いのだろう

「好きなんだもの仕方ないわ」

「そうか、ならいつでも触ってやる」

「それはダメ」

「どうしてだ」

「寝てしまうもの、バルフレアだって心地よくなるでしょ?」

「さぁな」

素っ気無いその返事。

それに対して広く色んな意味で考えてしまう自分。
ああ、そうなんだと自己解釈して苛々してきた。



「子供みたい」

「?」

「別に。。。。聞き流して」

「何考えて怒ってるんだ」

「貴方が思っている通りよ」

「それでいいのか?」

「ええ、察して」


鼻で笑ったバルフレアは切り終えたハサミを机に置き散らばった髪を片づける。
依然その姿勢を変えずに座ったままのの髪を梳きながらもう一度笑った。





「・・・・知らない」

「寝てもいいぞ」

「寝ないわ、何があっても」

「想像したのはだろ」

「そうさせたのはバルフレア」


それに一度女の人と歩いているのを見たのだ。それはゆるぎない事実。

「何だ、やきもちか?」

「自分だってしたことあるじゃない」

口を尖らせみせるにバルフレアは言う



「あるさ。好きなんだ、仕方ないだろ」

「!!」

あっさりとそれを認めてしまう彼。

「だからあの時お前も怒ってたんだろ」

「・・・・仕方ないじゃない・・・」

クルリと体を返しバルフレアを見つめる


「好きなんだもの、嫉妬くらいするわ」

真剣に見つめる表情とは裏腹に見つめ返す彼は口元を上げてに近寄っていく。


「心配しなくても何もない」

「事実無根ね」

「お互いにな」


見た訳ではない、相手の全てを知っている訳でもない。
それでも相手が言う言葉を受け入れるしかないんだ。

過去の事なのに、そうだと言われれば傷ついて、違うと言われれば疑ってしまう。
でも今、好きな相手が目の前に居るのは確かな事で。


、不安なら確かめてみるか?」

「何を」

「察してくれ」

バルフレアの手がソファーの上にあるの手に重ねられる。
身体を前に倒してくるバルフレアから逃れようと後ろに身を引くが押さえられた手がそれを邪魔する。

こんな状況になって察するなど考えなくても分かるほど互いの顔はあまりに近い。


「どう思ってるか直接伝えてくれればいい」

「―・・・」



ゆっくりと瞳を閉じ自分の唇をバルフレアの唇へと押し当てる。
柔らかな感覚やその人の体温、離れてはまた触れ強くなる。



唇が動けば言葉を伝え、それが触れれば心を伝える。



今の私の想いは伝わっているだろうか。
好きで好きでどうしようもなくて、溢れそうなこの気持ち――



「バルフレアが好き。。。好きなの」

「ああ、分かってる」


唇に残った伝えられた熱さを自分のものにしてお前に返そう。

足りなければ言葉を借りて、それでも足りなかったら、


もう一度、唇を重ねればいい―